2003年7月 5日

意志とビジョンとイノベーションのジレンマ

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これとかこれとかそういう本ばかり読んでいては、
サラリーマン的にどうかとか思ったので、
「意志とビジョン」という本を読んでみました。

これは一般に経営学には「先行者優位」が言われがちなんだけど、
実はちゃんと調べてみたら先行者(パイオニア)が優位なんてことは
ちっともなくて、実際にはむしろパイオニアの方が失敗してる、
って言う衝撃の事実が明らかになって、
実際には「意志とビジョン」がくっきりしている企業が生き残っている、
という結論に至る尻つぼみな感じの本でした。

たしかに、本にも出てるマイクロソフトなんかを見てもよくわかるように、
パイオニアかどうか、と言うことよりも、意志を持ってジャブジャブお金を
つぎ込めるか、さらに、ニッチじゃなくてマスマーケットを目指せるか、
と言うことの方が重要、というのはよくわかるけど、
それができたら苦労しねえよって言うか。

で、これを読んで思い出したのが有名な「イノベーションのジレンマ」
なんですけど、一応説明すると、これは、
優秀な経営をしているイノベーター企業ほど、
「破壊的技術」を見逃して大失敗してしまう、というもので、
重要なのは、この企業の優秀さ「故に」失敗する、ってところで、
本の後半にそれへの対策がいくつかでてるけど、ほとんど役に立たないと思う。

ここでは技術を「持続的」と「破壊的」に分けていて、
イノベーター企業は「持続的」技術に関して言えば100%の確率で
ついて行けていて、ここに新規企業の入る余地はない。
で、「破壊的」って言うのは何を指して破壊的かと言えば、
この技術が今の技術に対してチープで、性能は悪いところにある。

つまり、コンピューターを例に出せば、
メインフレームの企業にとって、パソコンって言うのは破壊的技術で、
技術的にはおもちゃみたいなもんで、簡単に作れてしまう。
でも、いまの顧客のメインフレームのユーザーは当初、
パソコンなんて欲してないし、何より企業の規模に対して、
利益率が低いから参入するのはかなりばかげている。
1000万円の企業が10%成長するのと1000億円企業が10%成長するのと、
では求められる利益率が全く違うから。

でもそれはパソコンが小さいという新しい価値基準をもっており、
メインフレームとは全く違う層を開拓してそっちがマスになることと、
それからの性能の伸びが著しいこと、でひっくりがえされて、
ひっくりがえったところであわてて参入すると、もうすでに遅すぎ、となる。
だから破壊的なんであって、例えばPentiumがPentium4に一気に進化したとしても、
それは「持続的」に分類される。


で、最初に戻ると、思ったのは、マイクロソフトにとって、
ネットスケープとブラウザーって言うのは「破壊的」な技術であって、
マイクロソフトはたぶん失敗目前だったと思うのだけど、
そうはならなかったっていうのは「意志とビジョン」によると
ビルゲイツの鶴の一声だったという。
(追記:「イノベーションのジレンマ」ではブラウザは持続的技術に分類されてますね)

それだけ読むと意志とビジョンがあればイノベーションのジレンマを
超えられる!って思いそうだけど、企業が属人性を廃して、
合理的に利潤を追求すればするほどそういうことはなくなるわけで、
ビルゲイツが死んだり、感度が鈍ったりすればその時点でダメになる戦略なんて
とてもじゃないけど取れないのがふつうだよね。


そんなわけで、「意志とビジョン」よりは救いがない感じの
「イノベーションのジレンマ」の方が好きだったりします。

Posted by kent at 2003年7月 5日 18:45